約 2,287,651 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3652.html
・・俺はただあいつに、笑っていてほしかっただけなのかもしれない。 涼宮ハルヒの再会 (1) いろいろありすぎた一年を越え、俺の初々しく繊細だった精神は、図太くとてもタフなものになっていた。 今の俺ならば、隣の席に座っている女の子が、突然『私、実はこの世界とは違う世界からやって来ているんです』などと言いだしたとしても、決して驚かないだろう。 愛すべき未来人の先輩や無口で万能な宇宙人、そして限定的な爽やか超能力者たちとともにハルヒに振り回されて過ごしたこの一年間は、俺があと何十年生きようとも、生涯で最も濃密な一年になるはずだ。 と言うより、そうなってくれないと困るな。 これ以上のことは、さすがの俺も御免こうむりたい。 いくらなんでも毎年毎年、クラスメイトに殺されかけるような事態は起こらないはず・・・と、思いたいな、うん。 北高に入学してから丸一年がたち、SOS団の団長及び団員はみな、無事進級した。 まぁ、“無事”などという表現が必要なのはどうやら俺だけだったようだが。 もっとも、万が一俺が留年し、一年生をやり直すなどという事態になれば、ハルヒの雷が落ちるのは間違いなかったわけで、そうなれば古泉の機関も黙ってはいなかったであろう。 来年、俺が留年しそうになったら頼むぜ、古泉。 「申し訳ありませんが、あなたの学業のことに関しては、機関はノータッチを貫かせていただきますよ。」 冗談だ。俺もお前や、お前の機関にできるだけ借りなんて作りたくないからな。 「それは結構。では、とりあえず今度の中間テストの結果を楽しみにしておきますよ。」 ふん、誰がお前にテストの成績なぞ教えてやるものか。 「いえいえ、あなたの口から直接伺えるとは僕も思ってはいませんよ。あなたもご存知の通り、この学校には僕や生徒会長の彼以外にも、機関の息のかかった者はおりますので、ご心配なく。」 いやいや、逆に心配になるんだが。 一体お前の機関にどこまで俺のことを調べられているのやら。 「おや、興味がおありですか。では少しお話ししましょうか、あれはたしかあなたが中学2年生の6月・・・」 「おい、こらちょっと待て、誰が話せと言った。」 それは、この約3年間の月日をかけて、ようやく記憶の片隅に追いやった、二度と思い出したくないエピソードだ。 勝手に引っ張り出してくるな。 「そうですか、それは残念ですね。やはり記録として活字で上がってくるものを確認するのと、本人のリアクションを見ながら確認するのでは、だいぶ違いがあるのではと思ったのですが。」 「いいか、その話は二度とするな。特にハルヒの前では絶対にだ。」 「それはもちろん分かっていますよ。僕のほうとしましても、いたずらに涼宮さんの心をかき乱すようなまねは避けたいですしね。」 ハルヒだけではない、この場に朝比奈さんがいなくて本当によかった。 あんな恥ずかしい話を朝比奈さんに聞かれた日には・・・ ああ、いや、これ以上考えるのはやめにしよう。 軽く思い出すだけで、激しい自己嫌悪に襲われる。 とにかく、あの二人に聞かれなかっただけ良しとしよう。 俺が部室に着いた時にはもう、いつも通りのポジションで本を広げていた長門には、話の触りを聞かれてしまったが、あいつのことだ、とっくに承知のことなのだろうし、仮に知らなかったとしても何ともないだろう。 先ほど、古泉の野郎があの話をしそうになったときに、長門がこちらをジトっとした目で見ていたのはなにかの間違いだろう、うん、そうに違いない。 その後、いつもより少し遅れてやってきた朝比奈さんのいれてくれたお茶を飲みながら古泉とゲームをし(当然俺の全勝だったのだが)、同じく遅れてきたハルヒによって朝比奈さんがおもちゃと化すのをなんとか止め、長門が本を閉じるのを合図に帰宅する、というこの一年の間にすっかり定着したこの日常を、俺はいたく気に入っていた。 だってそうだろ。 未来人や宇宙人、自分の望み通りのことをおこせるトンデモ少女(古泉の機関に言わせると“神”か)なんていう、ありえない肩書きをもっているとは言え、学校でもトップクラスの美少女たちに囲まれて、毎日の暇な放課後に色を加えることができるのだ。 まぁ、リーダーである団長様がアレなので、今の俺のポジションを羨む野郎なんてのは、つい一月ほど前に入学してきたばかりの新一年生にしかいないだろうが、人って生き物は慣れてさえしまえば、あとはなんとでもなるものである。 最初にも言ったが、俺はハルヒ絡みのことではちょっとやそっとじゃ驚けない体質になってしまっている。 宇宙人、未来人、超能力者が揃い踏みのこの空間で普通に過ごしている俺にとってみれば、身の危険さえ迫らねば、あとのことはたいてい黙って見過ごすことができるだろう。 そう、それがハルヒ絡みのことであれば、だ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2852.html
遅刻ぎりぎりで門をくぐった俺は、玄関で靴を履き替え駆け出した。 しかし、靴箱に例の朝比奈さん(大)からの指示文書が入ってなくてよかったなと思う。 読む時間など、今の俺には皆無だからだ。いや、もしかしたら時間など忘れて読んでしまうかもしれんが。 人影も無く、教室からの談笑が聞こえるのみの物寂しい廊下を駆け抜け、一路教室を目指す。 なんてことはない。すぐに到着してしまった。 戸をガラガラーっと開けると、岡部教諭が来たのかと勘違いした奴の目線がこちらに向かってきたが、すぐに元に戻った。 こういうのって気まずいよなー・・・となんとなく思いつつ、ぽっかり空いている俺の定位置に腰掛けた。 と同時に、後ろから奴の声がする。そいつは頬杖をつきながら外を見つめ、横目でこちらを見ながら、 「遅かったわね。あんたが遅刻なんて珍しいじゃない」 と話かけてきた。まぁ分かるとは思うが、涼宮ハルヒだ。 態度でも分かるが、声のトーンが少し低いからして、あまり機嫌は良くないらしい。 「寝坊しちまったんだよ。高校入学以来初だ」 わざわざ振り向いて言葉を返してやったというのに、ハルヒはちっともこちらを向こうとしない。 「どうした、ハルヒ。窓の外に怪しい人物でも発見したのか?」 「別に。ただ、あのあたりであんたがニヤケ面のまま歩いてきてたな・・・って思っただけ」 ・・・ちょっとまて。俺はそんな顔してたのか?全く自覚が無いが。 「自覚してないわけ?ま、みくるちゃんの新コスプレを考えてたときほどじゃないけどね」 バニー、メイドと来たら・・・っていろいろと考えてたんだよな。 結局その後初めて着たコスプレは何だったかな・・・凄く似合ってたんだが・・・えーと・・・、 「・・・・ニヤケ面」 「お前が朝比奈さんの話を出すからだろうが」 朝比奈さんの姿を思い浮かべて微笑むことのない男子など、この世にはいないと思うぞ。ホモ以外でな。 「まぁいいわ。それより、あんたと一緒にいたのって昨日部室に来てた子じゃないの?」 あぁ。お前の話を(唯一)熱心に聞いてた子だよ。 「やる気があるのは結構なことだけど、なんとなく不思議さが足りない気がするのよね・・・」 「俺は不思議でもなんでもないだろうが」 不思議的存在でないのは俺だけだ。SOS団の構成員の中で唯一の普遍的存在が俺なんだよ。 「あんたは雑用係なんだから関係ないのよ。不思議を見つける手助けをする役目なの。それよりね」 それより? 「・・・あんまり団と関係の無い子とそーゆー誤解されるような行動をするのは慎みなさい」 いきなり何だよ。恋愛感情やらその辺のことにはことさら無関心なのがお前じゃないか。 「別に、あんたが誰と付き合おうとあたしの知ったことじゃないけどね」 「そういう行動ばっかりしてると、SOS団がただのお遊びサークルだっていう風に誤解されるのよ」 実際、そのとおりだと思うんだがな。SOS団もお遊びサークルのようなものだ。 いまだにSOS団の活動で不思議を(ハルヒが)目の当たりにしたことなんて皆無だし、 夏休みに孤島に合宿に出かけたり、夏祭りに行ったり、プール行ったり、 冬休みに雪山で遭難しかけたり(これは事故のようなものだが)、春に花見したりっていうのはそういうサークルのやることだ。 イベント好きという点ではSOS団団長も、お遊びサークルの長も一緒らしいな。 目的がそもそも違うが。 「ま、そういうことだから。あんまりいろんなところでニヤケ面晒すんじゃないわよ」 「ニヤケ面は余計だ。第一、俺にそんな下心はだな・・・」 俺が不機嫌そうな声で言った時にやっとハルヒはこちらを見据え、 「いいから。とりあえずそういうのは無しよ。いいわね?」 反論などできん。したらハルヒの怒号が教室中に響きわたることだろう。このエロキョン!!とかな。 そんなことを言われたら、この教室に居づらくなる。 しかし、ハルヒがこのような反応を見せたのは意外としか言いようがなかった。 いままで、男女関係に対する興味など皆無だったあいつが、団がどうのと言いながらも口を挟んできたことがだ。 俺と渡が特別何かをしたわけでもないのに。 . . . . . 疑念の尽きないまま授業を受け、そうするうちにお昼時となった。 いつもどおり、国木田と谷口と一緒に食べる。 始めはいつもどおりのたわいも無い雑談だったのだが、途中でアホの谷口が余計なことを口走った。 「ところでよー、キョン。朝のあれは何だったんだ?」 箸の先をやや俺側に向けながらそう言いやがった。 「さぁな。(モグモグ)・・・俺にもわからん。いつもは『恋愛感情なんて精神病の一種よ』とかいうやつなんだが」 やけに塩辛い焼き鮭を頬張りながら答える。 「あいつらしいな、その言葉は。んで、キョン」 気持ち悪いくらいにニヤケた面をした谷口は、 「俺にはなんとなく読めるぜぇ、あいつの考えてることがな」 自分でニヤケている時には自覚がないが、他人のニヤケ面というのはここまで不快なものなのであろうか。 「もっとも、あいつの思考回路が一般的な女子高校生と同じものだったらの話だけどな」 ハルヒの精神分析は古泉の得意分野だ。 その古泉曰く、あいつの思考回路は実のところまともらしい。 真実はプロである古泉の口から聞くことにして、冗談半分で谷口の仮説も聞いておくことにするか。 ハルヒが教室内にいないことを確認し(今日は学食だな)、谷口に命令する。 「言ってみろ」 焼き鮭を全て飲み込んだ後で本当に良かった。 そうでなければ噴き出していだろうからな。 ・・・谷口の出した回答は、それだけの意外性と破壊力を持っていた。 「簡単なことだ、涼宮はお前が他の女とイチャついてたら面白くないんだ。要するに・・・キョン。あいつは、」 ―――あいつは? 「お前のことが好きなんだよ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/983.html
それは長かったのか短かったのか……実際にはとてつもなく長かったという、 よくわからない夏休みが終わって一週間が過ぎ、 無理やり一日で終わらせた夏休みの宿題の提出した日以降、 俺はひと時の安らぎを覚えていた。 次の大きなイベントの体育祭まではまだ時間があるし、 ハルヒの今までの行動パターンから考えて老人を敬う日などという発想はおそらくこの世に存在せず、 あるとしたらせいぜいお月見イベントくらいのものであった。 朝比奈さんとのんびりとお月見するシーンを想像しながら、 一つの不安材料の行方を案ずればどうしても5月以来のバニー姿になる朝比奈さんしか思いつかず、 それはそれでぜひ見たい気もするのでむしろ楽観視していた。 そんなことよりも俺は休みというにはあまりに疲れた夏休みを無事(?)に終え、 今ようやく母の手の中で安堵の眠りについた赤ん坊のごとくすっかり安心しきっていた。 大いに油断していたといっていいだろう。 それは何の前触れもなく突然訪れた。 「キョンくん! 起ーきーなよ! あーさだーよお!」 バシバシと俺の太ももを叩きながら徐々にその叩く位置を上の方へとずらしていく妹を感じつつ、 残暑の朝特有のじっとりとした汗ばむ掛け布団を跳ね除け、ゆっくりと俺は起きた。 実際にはまだもうあと5分くらいは眠りたいという体の欲求には勝てず、 とりあえずこの妹の前では起きたフリをしなければならないのだが、 俺は眠い目を開けずにゆっくりと起き上がり、いかにして朝の貴重な時間の侵略者を撃退する作戦を展開しようかと考えていた。 「あれ?お兄ちゃん?いつかの……なんだっけ、なんであのお兄ちゃんがここに?あれ?んー?」 お前のお兄ちゃんがここにいなかったら誰がここにいてほしかったのか。 それとも古泉がここにいて朝からあの引きつるような笑顔でさわやかに、 やあ、おはようなどと呼ばれたらよかったのか。 そんなことより早くこの部屋から出て俺に二度寝の幸福を味合わせてくれたほうが兄に対する最大の兄孝行になるのではないか。 まてよ。お兄ちゃん?今お兄ちゃんと言ったか妹よ。 数年前、叔母のきまぐれでついたあだ名をお前が広めたおかげで、 すっかり定着してしまったあの忌まわしきあだ名を使わずに今俺に向かって「お兄ちゃん」と発したのか。 「あのー、キョンくんは? どうしたの?」 はぁ? 意味がわからん。 もともとこのできの悪いお子様は、結局のところ俺と唯一血を分けた兄妹であり、 できの悪いところを含めて俺の責任が全くないとも言えなくもない。 いや、俺が遺伝子を分けてやったわけでもないし、 本当は両親がひた隠しにしていて実の子ではないということや、 赤ん坊のころ病院で取り違えてしまった可能性もなくはない。 「お母さーん。キョンくんじゃなくてお兄ちゃんがいるー。ねー、お母さんってばー!」 このような状態の妹をカタカナ二文字で表現するのもいい加減飽きがきた。 都合よく妹を追い出すことに成功した俺であったが、 妹の甲高い声と意味不明な言動のおかげですんなり目が覚めてしまい、 早起きは3文くらい得したのだか得していないのだかはっきりしないことをあまり考えようとせず、 ゆっくりと洗面所へと足を運んだ。 最近すっかり身の回りに変なことが起きるのが当たり前になりすぎていて、 異常現象というものに対して緩慢になっていた俺であったが、 実を言うとこの時点ですこし嫌な予感がしていた。 この予感はいつも俺の意識の奥底で淡く黄色信号を発するものであったが、 いつも黄色く感じた信号は実際は限りなく黒に近い赤であることが多かった。 その日の信号は黄色と黒の混じった色であったに違いない。 歯ブラシに適量の歯磨きをうまくのせて口へ運ぶ。 この作業をだいたい20秒くらいかけてゆっくりと行った俺は、 目を覚ますようにゴシゴシと力を入れて歯を磨いた。 実際にはあまり力を入れないほうが歯垢はよく落ちるのだが、 俺の中の公式では力の加減に反比例し、歯磨きは早く終わる一次関数になっており、 このときも10秒ほど磨いたらOKだろと思いつつ口に含んだ異物を吐き出そうと洗面台へと顔を向けた。 目の端に映った鏡の中の違和感に俺は思わずビクッと体を痙攣させた。 鏡の中に俺が ──いなかった。 いや、実際にはそこには俺はいたのだが、 その俺は本当の俺ではなく、俺という実体のない俺であった。 そこには眠たそうな目で歯ブラシを咥えた古泉がいた。 一瞬、頭の中が真っ白になったが、 体は無意識に鏡をなぞるように動いていた。 目の前にいる古泉が見たこともないような驚愕の表情でその行動をなぞりながら 餌を与えられた金魚のごとく口をパクパクとさせていた。 口から歯ブラシをポロリと落とし、半分涎をたらしながら凍りつく無様な姿の古泉は 他から見ればさぞ貴重な映像だったに違いない。 鏡の中の古泉は手を顔にこすったり体のいろんな箇所を叩きながらせわしなく動いていた。 手のひらに沸いた汗が夏だというのにいやに冷たく、 心臓の音が耳の外側から聞こえるほど大きく感じた。 俺はまた頭の中が白いもやの物に覆われ、徐々にそれが大きな雲になるに至り、体は動かなくなっていた。 永遠とも感じる長い時間が流れ、 いや、実際には30秒くらいだっただろうか。 その間俺は考えるということを放棄して、時間の把握という概念の損失を体感していた。 何が起こったかということはすぐに理解できた。 つまり朝起きたら俺が古泉になっていたということだ。 鏡が実際とは違うものを映す存在に変化したのではない限り、これしかない。 簡単である。 この状況自体はすぐに把握できた。 だがどうすればいいかなど考えもつかなかった。 これからどうすればいいのか考えるのにはまずゆっくりと頭を冷やす必要があった。 自分が自分でないという状況で冷静に立ち回れる人間がいたらすぐにでも俺の前に出てきていただきたい。 立場を変わってやるから。 「だーかーらー! お兄ちゃんがいるのー! 知ってたのー?」 さきほどから妹は母親に古泉(俺)の存在を告げているようであったが、 お兄ちゃんが俺を指す単語でもある以上、すぐにはこの古泉の存在に気づくことはないだろうが、 現在ここにある状況は妹の言動を要せずともはっきりとわかる異常な事態である。 あんた誰?という質問を受けて、はい古泉と申します、 などと返答したところで怪しさは天文学的数値に跳ね上がり、 泥棒!と叫ばれないようにするには俺の名前を出さざるを得ないだろう。 「違うよかーちゃん俺俺」 なんて本人を目の前にしての俺俺詐欺が通用するほど俺の母親はボケてはいない。 俺にはこの状況で冷静な嘘を考える余裕などなかった。 もちろんこんなところを両親に見られるわけにはいかない。 すぐさま飛び上がるように俺の部屋へと戻りカギをかけた。 そして右を見たり左を見たりと怪しげな挙動を示しながら「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせながら、 耳から聞こえてくる声がたしかに自分の物ではないことを感じ、そのことで自分をますますパニックにさせていた。 言われてみればたしかに古泉の声のようにも感じるが、 自分の耳に聞こえる音はいつもの古泉のそれとは少しずれていたように感じた。 そしていつものところに置いてある携帯を見つけるのに一分近くかかり、 手につかない状態で携帯を落としそうになりながら番号を検索し、コールボタンを連打した。 呼び出し音を聞きながら机の上に置いてある手鏡をこっそり覗くと、 そこにはやっぱり今にも泣き出しそうな顔をした古泉がいるのである。 かける相手は一人しかいない。 この体の持ち主である。 3コールほどで相手が出たことを確認した俺は矢継ぎ早に用件を述べた。 「おい、古泉! どうなってんだこれは!いや、どうなってるのか俺には全くわからんがお前にはわかるのかこれは。 いや、そうだ! お前の方はどうなってんだいま! そこにお前はいるのかどうなんだ? そこにいる俺は本当に俺で合ってるのか!?」 混乱した頭である。 文章の体をなしていないことには目を瞑っていただきたい。 「わかってます。落ち着いてください。こっちも大変なんです。 とにかくすぐに家を出てください。 それからなるべく家族の方に見つからないように部屋の窓から出るようにしてください。」 といって一方的に電話が切れた。 だが、返答に出た人物は明らかに古泉ではなかった。 古泉が女性であった記憶は俺にはないからだ。 どこか聞いたことのある声であったが、 古泉の携帯に違う人が出たということで向こうの方にも同じような緊急事態が起こっていることを把握した。 寝巻きのまますぐにでも飛び出したい衝動に駆られたが、 とりあえず制服に身を包み、窓の外へと体を乗り出した。 靴を履いていないことなどこの際どうでもいいことであり、 それよりもどこへと向かったらよいものか。 どこへ向かうつもりなのかもわからずとにかくここではないどこかへ行きたかった。 二階の窓から一階の屋根に降り、 周りに見つかっていないかどうか辺りをうかがっていると玄関のすぐ脇から女性が出てきた。 見つかってはまずい状況であっさり見つかってしまい、部屋に戻ろうかどうしようかと思索していると、 「早くこちらへ!」 と道案内するかのように手を振った。 一見OLのような姿のその女性の手を借り、庭の塀伝いに地上へと足をつけた。 「あなたは?」 「『機関』の者です。お話は目的地についてから詳しく。」 その女性に背中を押され、道路へ出るとすぐ目の前に黒いタクシーが一台、勢いよく止まった。 いつしか古泉に連れられて閉鎖空間へ行ったときのあのタクシーと同じ型であるように見える。 でも、俺は誰だか本当にわかってるんですよね? 「ええ、詳しくは向こうで。まずは実際にその目で確かめていただかないと。それから」 それからといって女性が取り出したのは男物の靴だった。 「どうぞ履いてください。」 俺のいつもの靴より少し大きいような気もするが、履いてみると足にすっぽりと収まった。 すぐにこれが古泉本人の物であることがわかった。 そして今着ている自分の制服が少しキツい物であることにようやく今気づいた。 車内から外を見ようとすると窓ガラスにあの憎たらしい顔が不安そうな表情でうっすらと浮かんでいた。 試しに顎を人差し指と親指の間に置いて目を細めてみる。 むかつくほどキザな男の完成だ。 なるほど、たしかに自分自身の目で見てもいいツラはいいと感じるようだ。 しかし、こんなツラとは一秒でも早くお別れしたい。 せつにそう願ってやまないのある。 いい予感など何一つない、ただただ不安にいっぱいになるこれからの未来を考えているうちに 車は見覚えのある建物の前に止まった。 俺が車から降りるとそのまま女性を乗せた車は急発進してどこかへ消えた。 ついた場所が意外な場所で少し戸惑ったが、 この場所にいるということはどこへ行けばいいかはもうわかっている。 すぐにオートロックの玄関の前に立ち、7・0・8と呼び出しキーを押した。 「入って」 と声がかかり自動ドアが開いた。 声の主が長門ではない。 誰だかはすぐにわかったが、 実際に目で見てみないと俺は認めたくない。 エレベーターに乗って7階まで行き、 708の部屋をノックすると、すぐに部屋のドアが開いた。 開けてくれたのは無言の朝比奈さんであった。 リビングに通されるとコタツに座っている長門がいた。 「………」 少し引きつったような笑顔を見せる長門は間違いなくいつもの長門ではない。 俺の知る長門はそんな表情はしないはずだ。 そしてこの状況を理解しているのか、 いなくても長門と二人きりの状況を嫌うはずの朝比奈さんがいやに落ち着いていることが、 この状況が異常な事態であること決定付けた。 ところでこの中にあと誰がいないんだ? えーと、長門、朝比奈さんがいて…… 古泉は……俺が今使っている体だから…… あとは俺だ。 そうだ、俺自身がまだいない。 とっさに朝比奈さんが立ち上がると同時にピンポーンと呼び鈴が鳴った。 「入って」 そう、最後に登場したのが俺である。 いや、俺の体の持ち主であると言ったほうがいいか。 最後に来たその「俺」は扉をそ~っと開けるようにして、 ブルブルと震えながら上目遣いで突っ立っていた。 目の前に俺がいる。 しかもその俺は明らかにサイズの小さい女性物の服を着て、 大きな袋を抱えながら困惑した表情だった。 ワイシャツを下に着て上にカーディガンを羽織っているが、 服の端はピチピチにはちきれそうである。 それでありながらその服をきっちり一番上のボタンまできちんと留めているのである。 いまどきへそだしルックなんていう言葉はもう死語になって久しかった。 ああ……俺……何やってるんだよ、おい…… 「あの~……ここ、こ、これってどうなっちゃってるんですかぁ~~?」 俺の声はこんなにキーの高いものだったであろうか? いや、自分の声というものは他人が聞く音より若干低く聞こえるという話を聞いたことがある。 それがこの声だとしても、 ちょっと気持ちが悪い声のトーンである。 まるで新宿二丁目のママのようであった。 「うわ、私がい、いるう~……本物だぁ……」 ドアを開けて無言で立つ朝比奈さんを見て、 この俺はじーっと朝比奈さんを見つめながら、なぜか少し興奮しているようであった。 俺の体は朝比奈さんの顔をまじまじと見つめながら、 無抵抗な朝比奈さんの顔、手、腕などを触っていた。 その手が朝比奈さんの胸につつきそうになったところで手首を掴んだ。 「朝比奈さん、おちついて。とりあえず中へ」 この俺の中身は間違いなく朝比奈さんであろう。 中身が朝比奈さんになった俺をなんとかなだめながらテーブルの前に座らせた。 目を回すというのはこういう状況をいうのだろうか。 実際その俺でない俺はその場にいる3人を交互に見つめながら せわしなく目を動かしていた。 本当に目を回しそうな忙しそうな動きである。 あわてている自分というものを他者の目を通してみたからだろうか。 俺は幾分か落ち着いて周りの状況を把握できてきた。 どうやら入れ替わったのは俺と古泉だけではなかったようである。 ここにいる全員が元の体ではなくなっているのである。 「そうです。僕です古泉です。わかりますか?」 長門が手をW字のように広げて目を細めた。 間違いなくこの長門の体の持ち主は古泉である。 朝に電話したときの電話の主はこいつだったであろう。 普段長門の話すトーンが低すぎるため、長門の声であるということに気づかなかった。 こんな似合わない話し方をする長門は金輪際見たくはない。 すると残る無言の朝比奈さんの中身は長門なんだな? 朝比奈さんを見るとゆっくりと小さくうなづき返した。 「わ、わ、わ、わたし朝比奈みくるです! 本当なんです! 朝起きたらなんか、かか体がキョン君に替わってたんです! し、信じてください!」 俺(朝比奈さん)が必死の形相で訴えかけるが そんなことはこの場の誰もが理解しているところである。 むしろこの俺(朝比奈さん)に全員の中身をもう一度説明する必要がありそうだ。 状況を整理しよう。 つまり俺が古泉の体に、 古泉が長門の体に、 長門が朝比奈さんの体に、 朝比奈さんが俺の体に、 移り変わったということであった。 無茶苦茶である。 人が入れ替わるという小説や漫画をいくつか読んだことはあるが、 実際にその体現者になるとは思わなかった。 しかも一対一ではないのである。 やたらと大きな風呂敷を広げてあとで収拾のつかなくなる小説のような話である。 つかなくなるのか? これは? とにもかくにもここにSOS団が一応全員揃ったようである。 全員といっても団長様がいないが、 ここにハルヒがいないのはまだ事態は完全な最終局面ではないということの表れで、 ハルヒまでが入れ替わっているとすれば世界中の人々は今頃全て入れ替わっていることであろう。 「それはない」 朝比奈さん(長門)がほとんど口を開けずになんとか聞き取れるだけの声量で話した。 「今現在、入れ替わっているのはこの地球上でここにいる4人だけ。」 朝比奈さんがロボットのように無表情にかつ、冷静に話しているところを見るのは初めてである。 この中身が長門であるとわかっていても本来の朝比奈さんには永遠に無理な表情である。 なぜか思わず見とれてしまうものがあった。 それにしても……なぜ? 「今日午前6時12分47秒頃、小さな時空変換が行われた。」 これだけ大事になっているにも関わらず「小さな」と表現する朝比奈さん(長門)は 無機質な動きでテーブルの端に置いてあった急須でお茶を入れながら答えた。 やっぱり原因はハルヒなのか? 「そう」 そう答えて朝比奈さん(長門)はテーブルの上にお茶の入った湯飲みを並べてくれた。 「おそらくはこうですね」 長門(古泉)が手を横に広げながらやれやれといった表情で顔の前に人差し指を立てながら説明した。 やめろ。長門の体でそういうしぐさをしないでくれ。 長門に対するイメージが崩れる。 「時間から推測するに涼宮さんの夢の中で、 こんなふうに僕たちが入れ替わる状況を無意識的に望んでしまったのでしょう。 あるいはそんな夢を見ていたのでしょう。」 なぜ、こんなことを考えたんだ。 「さあ?あなたこそ涼宮さんの様子で何か変わったところに気づかなかったのですか?」 前兆など何もない。 ハルヒの変わったところを論文にして書き出したら史記全巻52万6千5百字をも上回る量の説明が必要だろう。 いまさらあのバカ女の思考構造について論じることは何一つない。 「ただ、そうなったら楽しそうだから。」 そんな理由が立派な理論として確立できるのだからこちらには勝ち目はない。 同じ夏休みを1万5千回繰り返すような望みを俺は持ったりしない。 「通常、この程度の時空変換であれば全て元に戻すことは可能。 もし、できなくとも他者および本体からの観測情報を操作すればいいだけのこと。」 通常……というかこういう事態は通常の世界では起こりえないと思うんだが、 長門たちの世界ではこの程度のことは日常茶飯事に起こせるというのだろうか。 ハルヒの力を借りずとも俺たち人類をまるっきり入れ替えることすら出来るのであれば、 こんなに脅威になることはない。 いや、俺たちが気づかなかっただけで今までもこういうことは起きていたのかもしれない。 ただ、長門が一瞬にしてそれを元に戻していたために誰も気づかなかったとも考えられる。 本当にこいつが敵に回ることがなくてよかったと痛感する。 「だが、今回の時空変換の際に時空間そのものへの干渉に制限がつけられた。 これにより9月12日の午前6時12分47秒頃まで私の能力の中で、 物質変換能力、物質構成能力、位相転換能力、情報同位能力、時空移行……(略)……に制限がついた。 つまり今は使えない。元に戻るせるのは9月12日午前6時12分48秒以降」 今日は何日だ? 「今日は9月8日ですから9月12日は4日後ですね。 今回の時空変換で起こったことをまとめると」 長門(古泉)が立ち上がりコタツ机の周りを周りながら解説した。 「僕たち4人の肉体のみを物質的に入れ替えたということです。 朝起きたら自分の部屋にいたでしょう? その際、服装などは変化がなかったですね。違いましたか?」 そうだ、俺の起きたときの服はいつもの服だった。 「つまり意識や記憶その他もろもろの物を置いて体だけがグルッと一回りしたということです。 その際持てる能力も全てその体に移したといえるでしょう。 僕の超能力も、今ここでは使えませんがこの長門さんの体に宿っていることはわかりますし、 基本的にいつもとほぼ同じだけの力が使えるようです。何かしらの制限はあるかもしれんがね。 朝比奈さんも同じような状態でしょう。」 俺(朝比奈さん)がうんとうなずく。 「ただし、物質的な入れ替えであるため、体力などはその体に依存するようです 現にこの長門さんの体では僕はいつもの半分くらいしか物を持ち上げられませんでした。」 長門の体に移ったのであればむしろ前よりも力が出そうなくらいなもんだが。 まあ、本人が使えばもっと体がうまく使えるということかもしれない。 もしくは長門の普段の怪力や素早さなどは情報統合思念体の力を使っているとも考えられる。 「そして周りの世界は何も変化しなかったということです。 僕たちは中身は変わりましたがその中身の変化にまだ周りの誰もが気づいていないということです。 僕のこの見た目を見て家族はみんな僕を長門さんだと思ったようです。 これなら涼宮さんも見ただけでは気づくことはないでしょう。 長門さんの話を信じるとすれば3日後まで、今日含めて丸々4日間我慢すれば あとは12日の朝方に長門さんの力によって修正すればよいのです」 長門(古泉)は長門さんと言って朝比奈さん(長門)の方を向いた。 朝比奈さん(長門)は首を2ミリほど下に動かした。 会話の内容はそれほど難しくないが、 とてもややこしい状況だ。 誰が誰に話しているかわからなくなる。 なるほど。 それはハルヒが9月12日までの間、 団員みんなの位置を入れ替えたいと夢の中であるいは無意識に願ったというわけか。 9月12日の期限の意味はわからないが、その日まで待てば、 長門の力で全員元に戻ることができるというわけか。 「そう」 その12日前後にいったい何があるというのだ? ハルヒの力が発動してキッチリ4日間ということかもしれないが、 とにかくその日、もしくは時間まで俺たちを拘束しておかなければすまないらしい。 それにしても長門の力の一部に制限をつけるとはすごい都合のいい改変だな。 ハルヒは無意識に長門の正体をしっているんじゃないのか? 「あ、あの~……」 俺(朝比奈さん)が言いにくそうな顔で質問してきた。 いつもなら満月のように明るく満面の笑顔で答えられるところだが、 何せ質問者が俺の体である。 どうがんばっても顔に引きつりが起こるのは必定であろう。 「着替えてもいいですか?」 そうだった。 心の主はそんなに違和感を感じないかもしれないが、 傍から見れば違和感バリバリである。 むしろ早く着替えてください。 朝来たときに持ってきた袋を持ってすぐに隣の部屋に入っていった。 俺(朝比奈さん)のそんな姿をハルヒに見せようものなら間違いなくSOS団サイトのトップにされ、 この日本全体にその噂をとどろかすことになる。 何せ、SOS団のサイトは何もないにせよ見る人だけは3万人以上いるのだ。 不思議なことに。 そうなったら俺の人生は終わりだろう。 俺(朝比奈さん)が女物の服を着てここに来たわけは簡単であろう。 起きてこの事態に気づいてとりあえず着替えだけはしておいたのだ。 俺がそうだったように。 当然部屋にある女性物の服に着替えて。 服はそれしかないのだからな。 道中家族どころか人に見られることがなかったかがたまらなく不安である。 少なくとも『機関』による車でここに連れてこられるまでの間にその『機関』の人間には見られている。 そこで『機関』の人間により服の入った袋を渡されたのであろう。 待てよ。そうなると今朝、朝比奈さんは俺の体を既に見ていたようである。 朝起きたときに見なかったのだろうか。 男の朝の生理現象をこの人は理解しているのであろうか? そんなことはどうでもいい。 俺の体でありながら朝比奈さんにいいようにされているというのは、 ある意味ではうらやましいことではあるが、 こんな形での夢の実現は勘弁してもらいたいところであった。 「ええー、うぅぅぅ……。」 隣の部屋の俺から声が漏れてきている。 俺としては自分の体がどういうことをしてるのか常に監視しておきたい気もするがそうも行かない。 頼むからパンツは着替ないでいてもらいたい。 ああ……でも女物の下着をつけている俺を想像するとそれもやめていただきたい。 ええい、クソ! これがダブルバインドというものなんだろうか。 「う~ん、えい! う、うううぅぅ、……うわぁ~……。」 うわぁ~って……何が? 終わった。 真っ白に燃え尽きた。 ああ……もし立場が逆だったのなら…… 朝比奈さんの体に俺が乗り移ってしまったのならどうなっていたことだろうか。 全員が入れ替わるのであればそれでも別によかったのではないか? もしそうだったなら朝比奈さんにお嫁にいけない責任とってねと言われる展開もあったんではなかろうか。 いまさらそんなことを願ってもしょうがない。 ハルヒの願望は叶っても俺の願望は1ピコメートルも叶わないのが現状だ。 なんにせよ卑怯である。 理不尽である。 俺が自分の体を失う替わりに得たものはこの世で最も見たくない男の体で、 その体の主はなんと長門の体に憑依しているのだ。 俺の元の体はというとこの世で最も見られたくない女性に見られ、 俺が最も見たい女性の体は人間の体の構造になど全く興味のない宇宙人に乗っ取られているのである。 これがハルヒの考えたストーリーだとすれば俺への嫌がらせとしては最高の物であろう。 それにこの古泉のいいところなどあるとすればただ一つ、 超能力が使えることくらいだろうが、 その能力さえ俺には使うことができないのである。 俺は丸損をしているだけなのだ。 横に座って変なつくり笑顔を作っている長門(古泉)は座ってゆっくりとお茶を飲んでいた。 「ところで古泉……まさか長門の体で変なことしなかっただろうな?」 「まさか……しませんよ。恐れ多い。 それに女性の体になって喜びなんかよりも絶望の方がはるかに上でした。 長門さんには失礼にあたるかもしれませんがね。 今もそうです。早くその体に戻りたい気持ちでいっぱいですよ。 それは今のあなたにもいえる事でしょう。」 長門の体と古泉の体が等価で交換できる世界はあの世にも来世にもない。 「むしろあなたがうらやましいです。 性別の変化もなく、いちいち性別を意識しなくていいのですから。 僕は今日から女子トイレに行かなければならないんですよ? まともな精神をしていれば単なる苦痛です」 そんな話を横で聞いているのかいないのか、 朝比奈さん(長門)は終始無言で焦点の合ってないような視点を前に向けていた。 長門は朝比奈さんの体になってどういう風に感じたのだろうか。 情報統合思念体の思考経路はわからないが何かの変異を感じ取っていたとは思うが。 着替え終わったようだ。 俺(朝比奈さん)が出てきた。 ブレザーの制服を着ている。 気づけば全員が制服である。 長門(古泉)も朝比奈さん(長門)も きちんとサイズの合った制服を着ているようである。 すでに古泉の関係者で手配していたということか。 おい、古泉(俺)の制服だけ自分(俺)のものだぞ。 サイズがかなり小さいんだが。 「それはすいません。 でもそんなに見た目は変ではありませんよ。 4日間だけの辛抱です。なんならまた後で手配しておきますので 今日のところはこれで我慢してください」 しかし、もし俺が制服を着ずに来てたらどうなっていたんだ? ちゃんと服を用意していてくれたのか心配である。 ……それで、やっぱり学校に行くのか。これから。 時間はもう2時間目に突入している。 「当然でしょう。他の方はともかくとしても涼宮さんの前の席にいるはずのあなたがいないのです。 しかも無断欠席です。今頃涼宮さんの頭の中にはあなたをどう尋問するかということでいっぱいになっているんじゃないですか? ……いや、この場合は朝比奈さんになるんですけど。」 俺(朝比奈さん)がビクッと体を震わせた。 普段ならおびえた小動物に怖くない怖くないなんて声を掛けたくなる光景も、 今俺の体を使ってやられると気味が悪いの一言である。 俺の中の何かが何もかもをどうでもよくしてしまいそうな感情になる。 全員で今日これからやるべき役割をチェックする。 長門(古泉)は非常に簡単だ。 しゃべらなければいいだけである。 長門の友達や知り合いは少ない。特にTFEI関係は 朝比奈さんに扮した長門がそのまま受信しているだろうからややこしいことはない。 ただ、正しく情報同位できないため、正確な連絡は取れないと言っていた。 むしろ今はそれでいい。 朝比奈さん(長門)はとりあえず一番の友達鶴屋さんにバレないようにする。 バレてしまってももう仕方がないかもしれないが、少なくともバレバレにならないように努力だけはしてほしいと 朝比奈さん(長門)に言い聞かせた。 朝比奈さんの演技は実際かなり難しいと思う。 それにあの長門である。 今もものすごい違和感を吐き出している。 朝比奈さんの友達を減らさないか心配である。 そして古泉に乗り移った俺だが、 これは『機関』に関する用件はすでに連絡が行っているためその点は心配ないらしい。 クラスの友人の名前とだいたいの関係を聞いてあとは適当に流しているだけでいいということだ。 さらに数人が協力者になっているとの事でフォローしてくれるらしい。 授業の内容については全くついていける自信がないため、 ノートを取るだけに徹すると言ったら、とても助かります。と偽笑いの笑顔を作った。 コイツは本当に演技でもなくこういう笑い方しかできないのか? もう少し長門らしくしろ。 そして俺の体を今所有しているのはあの朝比奈さんである。 うっかり八平衛を丸ごと吸収したカービィのような存在である。 この朝比奈さんに俺の全権を渡すというのか。 しかも今日のハルヒはどうなっているかはわからんし、 なんせあの唯我独尊女は自分が他人に与える被害には鈍いくせに変なところだけはやたらと勘がいい。 バレないようにするのはかなりの労力を要するはずだ。 それから俺には家族もいる。 両親と妹にはこのことは内緒である。 今朝は飯も食わずに靴も持たずに出かけているのだ。 カギは外からも簡単に開くものだからすぐに俺がいないことに気づくであろう。 教えたいことは山ほどあったが、 全てを正しく理解できるとは思えない。 要点を何点か伝えたが目がうつろである。 仕方がないのでとにかく教室が一年五組であること、 席順がどうなっているかを間違えないことだけを念頭に、 誤っても2年のクラスに行かないようにとだけ念入りに伝えた。 遅刻した原因は坂道を登っている途中、頭が痛くなり学校へ足を運べなかった。でもいい。 とにかく謝っていればSOS団の一員である。 関わりたくない先生方はなんとかなるだろう。 ハルヒには頭が痛くなったと言い通すしかない。 あとは中途半端に受け答えつつ、なんとか耐えるしかない。 朝比奈さんには申し訳ないがいずれ俺の身に回ってくることなのである。 最終的に損を食らうのは全て俺なのだ。 そんな状態で4日も。 4日間もこの状態でいなければいけないというのはあんまりではなかろうか そのとき突然、 ポケットに入っていた携帯が勢いよく震えた。 マナーモードにしていたがまるでけたたましい騒音を鳴らしているようであった。 誰から掛かってきたかは出なくてもわかる。 まだ電話をとってもいないのにすでに大声が聞こえそうである。 俺がとっさに出ようとしたところを長門(古泉)が制止し、 俺(朝比奈さん)に手渡すように合図を送った。 まだ出てないんだからしゃべってもよかろうにと思いつつ、 俺(朝比奈さん)に無言で携帯を手渡した。 見るとどうしていいかわからずオタオタとしている。 「あ、あの……」 「コラー!! キョーン! あんた何学校サボってんのよ! 団員がそんなことをしてSOS団が不名誉に晒されるのは許されないんだからねー!!」 携帯を耳につけていた俺(朝比奈さん)は突然の騒音に目をバツにして倒れそうになった。 この部屋にいる全員に内容が丸聞こえになるような大声であった。 長門(古泉)がその体を支える。 ごめん、朝比奈さん……なぜかとっさにその体を支えるところまで頭が回らない。 「あ…あの……その……」 長門(古泉)が口の前で手を前後にやり、 何でもいいから話すように促した。 「あんたねー! あんたん家に電話したらもう朝早くからいないっていうじゃない! これはもう完璧にサボリでしょ!! いい度胸してるじゃなーい! きっちり先生にはあんたがサボっていることを伝えて置いてあげたわ。 感謝しなさい。 どこにいるのよ! 今何してるの!? 正・直・に・言・い・な・さ・い」 朝比奈さんの役どころはハルヒにいじめられるという、 前とは大して変わっていない役目を獲得した。 あぅ~、うう~、くぅ~と弱った子犬のようなうめき声を上げながら必死に答えようとしている 俺(朝比奈さん)であったが、そのままずっとまごまごするしか術はなかった。 「コラー! キョーン聞いてんの?! あぁ、ちょっ!もう休み時間終わるー! あああとで覚えときなさいよー!」 俺が自分の体に戻るまで、その体が無事で居てくれるかが心配である。 「では、いつもどおりに」 長門(古泉)が言った。 俺たち4人は今ようやく学校の前につき、 校門から少し離れたところに集まっていた。 4人が一緒に登校しているところを万一ハルヒに見られでもしたら大変である。 これ以上嘘の上塗りはいくらなんでも怪しすぎるからな。 ハルヒが人伝えに聞く可能性もなくはないので、 全員バラバラに校舎へ向かうことにした。 そして4人とも授業を終えたらいつもどおりに文芸部の部室へ行き、 部活を終えたら最後にまた4人で落ち合おうという段取りを踏んだ。 まず校門へ向かったのは俺(朝比奈さん)である。 何よりハルヒをこれ以上待たせるのは危険だし、ハルヒの意識が俺(朝比奈さん)に向いていれば 他の3人は見つからないだろうという判断でもある。 このあと俺(朝比奈さん)はどのような理不尽な仕打ちを受けるのか想像するだに恐ろしい。 ハルヒにはサボりと思われているようだし、 先生にもそのように伝わっているらしいのだから明るい未来はない。 ここから先に待っている茨の道を、替われるものなら替わって差し上げたいところである。 そんなことを考えながら少し内股になって校門へ走っていく俺の後ろ姿をじっと眺めていた。 5日間連投してヘトヘトになっている投手をマウンドに送り込むような心境だ。 いつもどおりに投げろというのが無茶な話だ。 俺こと古泉一樹も遅ればせながら教室へ向かうとする。 しんと静まり返った一階の廊下を抜けていつもと反対側の階段を上る。 他の教室の前を通らないようにするためだ。 授業中の1年9組の静寂を破って中へと入る。 「あら、古泉くん。腹痛はもう大丈夫なの?」 英語教師がチョークを持った手を止めてこちらへ向く。 どうやら古泉はあらかじめそういう風に連絡を入れておいたらしい。 クラスの全員の視線を一身にあびて少し緊張する体を感じながら古泉の席を目指す。 みんなどこか心配そうな表情である。 仮病がバレないかという心配よりも、本当に周りの人たちに古泉に見えているのかがまず先に不安になる。 「あ、ええ病院行ったらなんとか治まりました。続けてください。」 と俺が言いつつ鞄を机に掛けたところで3時間目の終わりを告げる鐘が鳴った。 じゃあ、今日はここまでと先生が教室を出て行き、教室に賑わいが戻る。 ふぅ、と小さくため息をつき、鞄の中を確かめようとしたところで数人の女子が机の周りに集まってきた。 「古泉くん、大丈夫? もう平気?」 心配そうな表情で先に話しかけてきたのは後ろの席の女の子だった。 小柄で眼鏡をかけ、髪を後ろで二つに束ねたその風貌は、 よくあるまじめなクラス委員長といった感じの印象をうける。 後でわかるのだが、実際にクラス委員長である。 もちろん何も病気になどなっていない。 いや、実際は病気なんかより重い症状を抱えているのだが。 俺は古泉の真似をするように目を細めつつ、 「ええ、もう心配ありません。大丈夫です。ありがとう。」 とにこやかに答えた。寒気がするようなわざとらしい答え方に自ら鳥肌の立つのを感じたが、 周りの女子はそれを聞いて、こちらもわざとらしいまでに喚起の声と安堵の表情を浮かべた。 なあ古泉……お前、クラスでもいつもこんな感じなのか? 4時間目の授業も滞りなく進んでいった。 授業中に限って言えば俺は今、古泉一樹ではないような気がしてくる。 特別進学クラスといっても、授業の内容があまりわからないのは……まあいつものことだし、 一年のうちは基本的な授業内容のレベルにそれほどの差はない。 ただ、先生にこの問題を解けと当てられると非常にやっかいなことになる。 わかりません、では済まされないのがこのクラスの常識だ。 先生の気まぐれがこちらに向かないことをひたすらに祈りながら黒板の文字をノートに写していく。 授業の終了と昼休みの始まりを告げる鐘が鳴り、 まずひと段落つけることにほっとしたとき、 初めて俺は自分がお腹がすいていることに気づいた。 朝から何も食べていないのは古泉も一緒だったのかもしれない。 さっき鞄の中身を確認した際、弁当は入っていなかった。 古泉はいつも食堂で飯を食っているのかなと思いつつ、ふと気づいた。 しまった。俺は今日財布を持ってきていない。 何も入っていないポケットをさすりつつ次の行動を考えていた。 今、俺の体(朝比奈さん)はどうなっているだろうか。 ちゃんと無事に俺を演じていてくれているのだろうか。 何か助言することはないだろうか? どうせ昼飯を食えないのであれば、それを確認したほうがいいかもしれない。 いすに座ったまま固まっていると背中に何かが当たったような気がした。 後ろの女子がシャーペンでツンツンと背中をつついていた。 さっきの委員長がにこやかに話しかけてきたのである。 「ねえ、今日お弁当作りすぎちゃったの。古泉くんも一緒に食べない?」 出来すぎてる。 俺は自分の体(朝比奈さん)が今どういう状況であるかを少し確認してみるべきだったのかもしれないが、 空腹に耐えかねた俺の脳には選択肢が1つにしか残らなかった。 思考回路が凍結されてしまったのだ。 最初に声をかけてくれたこの委員長はよく見ると目鼻立ちもしっかりしていて、 長門よりも地味な印象だが、静かさの中にしっかりとした意思を感じる顔つきで美形であった。 眼鏡属性のない俺としては眼鏡を外した顔も見てみたいところである。 気づいたら女子数人に囲まれながらサンドイッチやらタコさんウィンナーやらをほおばっている自分がいた。 今日は昼飯がないことを告げたらそれを聞きつけた周りの女子が私の分もわけてあげる、と恵んでくれたのである。 おいしい?と聞かれて、はいとてもおいしいです。と答える。 そんなくだらないやりとりなのにいちいち喜んでくれる女の子たちを見るに、 まるで自分はハーレムの主になったような気分である。 季節は秋になろうとしているのに、ああ、ここには春が到来している。 なにか仕組まれているような気がしないでもないが、 これで嫌な気持ちになる人間などいるはずもなかろう。 知らない人間に囲まれているというのは少し戸惑う状況ではあったが、 古泉しかわからない話や難しい話を振られることもなかったので、 緊張もほぐれ、終始俺の顔からは笑みがこぼれた。 こうしてあっという間に時間が過ぎ、 放課後になった。 文芸部の部室について、いつものように扉を叩く。 ノックの返事にしばらくしてからどうぞと小さく答えたのはの長門の声であった。 中に入ると長門(古泉)と朝比奈さん(長門)がいた。 長門(古泉)は手前のパイプ椅子に座り特に何もせずただこちらを見ていた。 朝比奈さん(長門)の方に目をやると、 いつも長門が座っている奥のほうのポジションの椅子に座り、 いつもどおりのメイド服を着て、いかにも長門が読みそうな難解な言葉で書かれた洋書を読んでいた。 長門……それはまずいだろ。 朝比奈さん(長門)の肩に手をやって立つように促す。 さっと洋書を取り上げ、栞を挟んで本棚の上に置く。 朝比奈さん(長門)はキッとこっちを無機質に見つめ、 なんとなく寂しそうな顔をした。 ほんの数日間だけだからと言い聞かせ、 朝比奈さん(長門)を部屋に入って右側手前のお茶汲みポジションの椅子に座らせた。 これでいつもの光景にだいぶ近づけたというものであろう。 ただ、朝比奈さん(長門)がメイド服を着ていたのは少し意外だった。 自分から進んでそれを着る役目を長門がきちんと理解しているようだった。 長門が中身であろうと、朝比奈さんのメイド姿は似合っていた。 シャンとしてまっすぐ遠くを見ているような姿をみるとそれはそれでいつもと違った魅力がある。 「何事もなく無事でしたか?」 長門(古泉)がこちらを見ずに質問を投げかけてきた。 「特に何も。」 いつもあんな天国を味わっているのかと問いただしたかったが、 わざわざコイツの自慢話を聞くようなハメに陥る気がしてやめた。 「こんな風に人が入れ替わるなんて話を、誰かにしたところで誰も信じる人なんていません。 だから、いつもどおりにしていれば時は勝手に過ぎていくものですよ。」 それもそうだなと時計をちらりと見ながら考えた。 バーンッ!! 頑丈な扉が壊れんばかりの豪快な音とともに開かれて、 いつものごとく傍若無人な女が入ってきた。 「ねえ、ちょっと!」 ハルヒが不機嫌そうな表情をしている。 俺(朝比奈さん)がもう何かやらかしたというのか。 顔がこわばり、心臓が高鳴る。 「今は秋よね?」 はぁ? 意外な質問だったが、少しほっとした。 じっとこちらを見つめるハルヒに少し緊張を覚えながら、古泉の仕草を思い出しつつ答える。 「秋です。9月ですから秋だといえるでしょう。 気温だけはまだまだ暑いですが、暦の上では秋真っ盛りといったところです。」 うまく言えただろうか。まだ少し肩に力が入っている気がする。 遅れて俺(朝比奈さん)が入ってきた。 「お、お待たせしました。掃除当番だったもので……。」 朝比奈さん(長門)がすっと立ち上がりお茶を入れ始めた。 この朝比奈さん(長門)の入れるお茶の味も楽しみではある。 「じゃあ、全員いけるわよね。」 何がだ。 相変わらずコイツは主語を言わないのである。 思わずいつもの口調でつっこみを入れそうになる。 その役目はこの俺(朝比奈さん)のやらなくてはいけないところなのだが、 俺(朝比奈さん)はボーっとハルヒの方を向いて話を聞いているだけだ。 にいっと白い歯をこぼしてハルヒが右手に持ったチラシを見せてきた。 「第6回市内大食い選手権大会参加者募……」 とここまで読み上げたところでチラシを机の上に投げ捨てて大声をあげた。 「秋といえば食欲の秋!これしかないわよね?古泉くん」 「け、結構なことではないでしょうか。」 古泉(俺)はいつものとおり古泉らしくそう答えるしかなかった。 大食い大会だと……? 食欲の秋は認めるにしても大会にでるほどの食欲はない。 だが、いつものつっこみ役が機能不全ではしょうがない。 朝比奈さん(長門)は淡々みんなの前にお茶を並べていた。 「あんたたち4人分はちゃーんと登録しておいてあげたわ。 あたしは監督としてみてるだけだから。 明日午後5時開始だから明日授業が終わったら即ここに全員集合よ! 全員朝からご飯抜いてスタンバイしとくこと! いいわね!?」 否定という言葉が存在しないがごとく俺たちの意見を無視して決定事項にしてしまった。 私はこのあと用事あるから! じゃあね! と言い切ってハルヒは勢いよく部室を後にした。 用事って・・・なんだ? 机の上にある大会のチラシを見ながらいつものハルヒと どことなく雰囲気が違うような気がしていた。 それよりハルヒは俺(朝比奈さん)の様子を見て、おかしいところとかに気づかなかったのだろうか? 「えっと、3時間目の終わった後涼宮さんにどうして授業に来なかったか聞かれたんですけど……」 俺(朝比奈さん)申し訳なさそうに朝比奈さん(長門)の入れたお茶を飲みながら答える。 自分がいうのもなんだが、この俺(朝比奈さん)の仕草はちょっとかわいかった。 「急に頭が痛くなって言ったら素直に信じてくれたみたいなんです。 それに先生の方には涼宮さんからキョンくんは急病で遅れるって連絡がしてあったみたいです。」 なんと。今朝携帯で聞いた話と180度違うではないか。 それでお昼は? 「はい、実は私、お弁当もお昼代も持ち合わせていなかったんですけど、 涼宮さんが食堂で食事を分けてくれまして。」 おかしすぎる。意外である。ありえない。 地球の時点が逆回転していないか心配になる。 「でも谷口さんや国木田さんはちょっと私のこと今日はおかしいって言ってました。」 それは仕方ないだろう。 確かに誰が見ても今日の俺(朝比奈さん)はおかしい。 今話すときも手を口元にやりながらしゃべっている。 「やっぱり涼宮さんに何かあったのかもしれませんね。 そのおかげで僕たちの異変に気づいていないようですが。」 なあ、古泉、長門の格好で「僕」はやめないか? 俺には僕っ娘属性はない。 「ふふ、じゃあ、あなたも一人称は「俺」ではなく「僕」にしてくださいね。 僕……いえ、私もこれからはそのようにしますから。ふふ……」 ふふ、というよりニヤリといった表情を見せて長門(古泉)が笑った。 それから全員で今日あったことを確認しあった。 一応全員うまくやれているらしい。 朝比奈さん(長門)と俺(朝比奈さん)は怪しいものだが、 ハルヒに気づかれないという最大の関門を無事にクリアできたらしい。 それから長門(古泉)は携帯をを取り出し古泉(俺)に手渡した。 「僕の携帯です。自由に使ってください。 それと今日の部屋です」 懐から取り出したのはホテルの鍵であった。 今日はここに泊まれということらしい。 「俺、いや僕はお前の、いや古泉家に泊まる必要はないのか?」 「ええ、家族はもう僕……いや、私のこの状態を知っていますから。 だから私は自分の家に泊まります。 それにこれは『機関』からの指示なんです。 すいませんが、今日はこのビジネスホテルに泊まってください。」 明日以降もこの流れで、もし何かあったら長門のマンションに集合ということで解散となった。 ビジネスホテルは光陽園駅のすぐ目の前にあるところだった。 長門のマンションに程近いところだ。 これなら長門にお願いして泊めてもらってもよかったんじゃないか? それに……今は長門は朝比奈さんの姿だ。 そう、間違いが起きないということもなくは……ない。 いや、ないない。もちろんそれはしないが。 と首を振りながら歩いていると、ホテルに向かう道の途中でさきほど長門(古泉)からもらった携帯が鳴った。 長門と表示されているが中身はもちろん古泉からだ。 さっき部室にいるときに話せばいいだろうに。 「あそこでは話せない用事なんですよ。 だからここで手短に申し上げます。 長門さんや朝比奈さんのことですが、 今回の件ではあの2人をあまり信用しないようにしてください。」 何を言い出すんだ本当に。切るぞ。 「ああ、いえいえそういうことではないんですよ。 全面的に全てを信じるともしかしたら痛い目にあうかもしれないということです。 今朝長門さん自身も言っていたことなんですが、 私たちの体を入れ替えることなんて元々彼女にしたら簡単なことなんですよ。 今回の件でも長門さんが全てを自作自演していないという保障はどこにもないんですから。」 長門が朝比奈さんになって何を得するというのだ。 それに能力に制限をつけてまですることか? 「いえいえ、それは相手の言うことを鵜呑みにしているにすぎません。 長門さんの能力が本当に制限されているかどうかなんて私たちにはわかりえないことなんです。 それに長門さんの目的は涼宮さんの観測です。 観測というものはいろんな視点からすることによってデータを浮き彫りにすることが出来るのです。 視点を変えるということ。 おそらくそれだけで十分彼女にとって有益な情報です。 もし長門さんが意図的に起こした騒動なら彼女に元に戻してもらうのは期待しない方がいいでしょう。」 あくまでこれは最悪の場合を想定してですよと付け加えながら長門(古泉)は続けた。 「それに朝比奈みくる、いえ朝比奈さんですが、 彼女にはもっと気をつけないといけないかもしれません。」 なぜだ? 彼女が俺の体に移ると何かすごいまずいことがあるのか? 「これはあなたにとっても大変不利益なことです。 もしも、涼宮さんが以前のような2人だけの閉鎖空間を作ったとしましょう。 そこにいるのは古泉一樹の体を持ったあなたですか? それともあなたの体に乗り移った朝比奈さんですか?」 もう二度とあんな空間にハルヒと2人だけで閉じ込められるのはまっぴらゴメンだ。 だがもしも……もしもが本当にあるとすれば俺はいったいどうなるんだ? 古泉の姿であのハルヒを止められるのか? それとも朝比奈さんの入った俺はあそこから脱出できるのだろうか。 「それに朝比奈さんの組織からしたら涼宮さんに直接干渉できる最大のチャンスを得たのです。 あなたの体を使って自分たちに有利な状況を作ることも出来るかもしれません。 だから朝比奈さんが今回の騒動を起こした原因ではないにせよ。 これからの朝比奈さんの動きには気をつけないといけないです。」 「もちろんお前の組織のいうことも全面的には信用できないわけだが。」 「そのとおりです。 僕の言っていることはあくまで『機関』の捉え方です。 あなたにはあなたの独自の考えがあって正しいのです。 ただ、そのためにも正しく今の状況を捉えてほしいのです。」 全員の入れ替え。 ハルヒの謎の行動。 考えることは山ほどあったが、 今の俺に出来ることはベッドに横になってただひたすら時が過ぎるのを待つしかなかった。 そして長かった一日が終わった。 第2章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2991.html
プロローグ 薬物乱用に溺れる奴等は、意志が金箔よりも薄いに違いない。 俺はそんな風に思っていた。しかしその考えが、 いかに的外れで愚かなものだったかと思い知らされた。身をもってな。 涼宮ハルヒのダメ、ゼッタイ 一章 俺は今日も強制ハイキングコースを、 目を半開きにしながらメランコリーに上っている。 なんで俺がこんな顔をしてるのかって? それは今が受験シーズン真っ直中で無謀にも、 俺がその激流の中に身を投じているからだ。 驚くことに俺は都内の某有名国立大学。つまり東大だ。 そいつを志望してしまっている。 いや、させられているというべきか。 あの崇高なるSOS団団長、涼宮ハルヒにな。 ちなみに別に俺はハルヒと付き合ってる訳じゃないぞ。 そりゃ、たまにいい雰囲気になったりもするが、 これといったきっかけがな。それに、今はそんなことより受験勉強である。 おい、そこ!誰だチキンとか言いやがった奴は!…正直俺もそう思う… とにかく、付き合ってもいないのに、 勝手に人の志望大学まで決め付けないでほしいものである。 お陰で昨夜もハルヒ特製受験対策問題集に打ちのめされ、こんな状態だ。 「よお!キョン!」 後ろから『朝っぱらから声を聞きたくない奴ベスト3』 にノミネートされている、谷口の声がした。 ちなみにあとの二人は古泉と妹である。 そのうちの片方は避けようがないがな。 「相変わらず眠そうだな、お前は。いいか? 親友として忠告してやる。お前が東大に合格するなんて不可能なんだ。 よく考えてみろ?俺が道行く女性にナンパして成功すると思うか?」 もしかしたらこいつは本気で心配してくれてるのかもしれないな。 自分をそこまで貶めることないのにな。 というか、お前は自分がモテナイ事にきづいてたのか。 「それはハルヒに言ってくれ。 それに俺だって東大一本に絞ってるわけじゃない。 あいつのお陰でちょっと名の通った私立大学くらいなら、 合格出来るだけの学力はついてるつもりだ」 まあその旨をハルヒに伝えたら猛反対されたがな。 しかし、そこまであいつの言われるがままになることもないだろう。 そんな会話をしてると後ろから女子の声が聞こえた。 「おはよ!キョンくん!谷口くん!」 そういったのは朝比奈さんではない。 あのお方は今はこの街にはいないからな。 その声の主は三年になってはじめて、同じクラスになった春日美那だった。 朝比奈さん同様、少し栗色のショートヘアーをアシンメトリーに束ねている。美人というよりは、健康的な可愛さがある女子だ。 「よう、春日」 俺はそいつに挨拶を返したが谷口は顔をしかめると、 そっぽを向いてしまった。やれやれ…またか。 クラス変え当初は、谷口のそんな態度をみて、 こいつも古泉と同じ道を歩みはじめてしまったのかと、 ひどく驚いたものだが11月の今となっては、 それは当たり前になっていた。谷口は、春日にだけはとてもそっけないのだ。 「じゃ、また学校でね!」 春日がその場を去ってから俺はいつものように、 谷口にその理由を聞いてみたが、谷口は 「あいつには絶対に、何があっても関わるな」 っと言ったきり一言も喋らなくなってしまった。 …やれやれ…そのセリフをきいたのも何度目かね… こいつは春日に、よっぽどひどいフラれ方でもしたのか? そんな事を考えながら俺達は学校についた。 この時、こいつの言葉の真意をもっと真剣に考えていたら、 俺はこのあとに待ちうける高校生活、 いや、人生の中で一番タチの悪い災難に会う事もなかったのかもしれない。 あのな、古泉。この世で一番怖いのは神様なんかじゃない、それは人間の欲望だ。 二章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/51.html
涼宮ハルヒの溜息 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成15年(2003年)10月1日 本編270ページ 表紙絵:朝比奈みくる タイトル色:橙色 初出:書き下ろし 初出順第5話 裏表紙のあらすじ紹介 宇宙人未来人超能力者と一緒に遊ぶのが目的という、正体不明な謎の団体SOS団を率いる涼宮ハルヒの目下の関心後とは文化祭が楽しくないことらしい。行事を楽しくしたい心意気は大いに結構だが、なにも俺たちが映画をとらなくてもいいんじゃないか?ハルヒが何かを言い出すたびに、周りの宇宙人未来人超能力者が苦労するんだけどな――スニーカー大賞<大賞>を受賞したビミョーに非日常系学園ストーリー、圧倒的人気で第2弾登場! 目次 プロローグ・・・Page5 第一章・・・Page14 第二章・・・Page48 第三章・・・Page100 第四章・・・Page154 第五章・・・Page210 エピローグ・・・Page270 あとがき・・・Page276 アニメ テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』より 未アニメ化(ただし、一部は2006年放送第01話『朝比奈ミクルの冒険 Episode00』、2006年放送第12話『ライブアライブ』の一部に組み込まれている。) 2009年改めて放送した『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2009年放送第20話『涼宮ハルヒの溜息 I』(第1章P14-第2章P56まで) 2009年放送第21話『涼宮ハルヒの溜息 II』(第2章P56-第3章P110まで) 2009年放送第22話『涼宮ハルヒの溜息 III』(第3章P111-第4章P165まで) 2009年放送第23話『涼宮ハルヒの溜息 IV』(第4章P166-第5章P220まで) 2009年放送第24話『涼宮ハルヒの溜息 V』(第4章P221-第5章P271まで、プロローグP5-P11まで) 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第5巻に収録第23話『涼宮ハルヒの溜息Ⅰ』 第24話『涼宮ハルヒの溜息 II』 コミックス第6巻に収録第25話『涼宮ハルヒの溜息 III』 第26話『涼宮ハルヒの溜息 IV』 第27話『涼宮ハルヒの溜息 V』 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん シャミセン 谷口 国木田 キョンの妹 あらすじ 後に繋がる伏線 刊行順 ←第1巻『涼宮ハルヒの憂鬱』↑第2巻『涼宮ハルヒの溜息』↑第3巻『涼宮ハルヒの退屈(原作)』→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/774.html
赤い光球は猛スピードで神人に接近すると、その回りを小刻みに円を描くような動きで飛びだした。 赤い光球が円を描くたびに神人の体が切り取られていく。 やがて神人は十数個ものパーツに切り分けられ、崩れ落ちていった。 朝倉「そろそろはじめよっか」 そう言うと朝倉は両腕を地面に突き刺した。 長門「逃げて」 オレたちの足元から朝倉の腕が飛び出してくる。 すんでのところで、ハルヒは朝比奈さんを抱えて、長門はオレを抱え、それぞれ 横っ飛びで回避した。 二手に分かれたオレたちに向かって、朝倉の腕がさらに追撃してくる。 長門「やらせない」 長門はすばやく呪文をつぶやき、朝倉の腕を消滅させる。 キョン(ハルヒと朝比奈さんは・・!?) まずい!横っ飛びで倒れたままのハルヒに朝倉の腕が迫っている! キョン「ハルヒ!」 そのとき、朝比奈さんがハルヒの体を突き飛ばした。 みくる「ぐ・・うぅ・・・」 見ると、朝倉の腕が朝比奈さんのわき腹に突き刺さっている。 ハルヒ「みくるちゃん!・・アンタよくも・・よくも!!」 みくる「ダメ・・・涼・・宮さん」 朝比奈さんがハルヒの腕をつかんだ瞬間二人の姿が消え、オレたちのそばに現れた。 キョン「朝比奈さん!!長門頼むッ!」 長門「まかせて」 長門が朝比奈さんのわき腹に手を当てる。出血は収まったが、今の長門の能力では 完治させるには程遠いようだ。 朝倉「これで一人リタイヤね。・・あれ?どうしたのキョン君、もっと怒らないの?」 ハルヒ「アイツよくも!許せない!絶対許せない!!」 キョン「落ち着けハルヒ!考えなしに突っ込めば朝倉の思う壺だ!」 ハルヒ「アンタよくも落ち着いてられるわねッ!!みくるちゃんがやられたのよ!」 完全にハルヒの頭に血が上りきっている。 キョン「朝比奈さんは大丈夫だ!長門がちゃんと見てくれてる。・・落ち着いて聞いてくれ。 こうなった以上、朝倉を倒すのはオレたちの役目だ」 ハルヒ「・・・」 キョン「長門は朝比奈さんから手が離せない。古泉があのでくのぼうを倒すには もう少し時間がかかるだろう。朝倉の相手をできるのはオレたちしかいない」 ハルヒ「わかってるわよそんなこと!だから今からアイツに一矢報いてやるのよ!」 キョン「それじゃダメなんだ!・・いいか、お前には世界を変える力がある」 ハルヒ「・・なにいってんの?それはアンタが持っている力で・・」 キョン「違うんだ。オレたちのSOS団ではそうじゃないんだ。 ・・SOS団の団員はみんなお前が集めてきただろ。お前は適当に選んだ って言ってたけどそれはウソだ。 それぞれ立場は違うけど、みんなお前が願ったからこそSOS団に来たんだよ」 ハルヒ「・・・」 キョン「もちろんオレだってそうだ。お前が願ったからオレはお前の前に現れた。 ・・そして一緒にSOS団を作った。そうだろ?」 ハルヒ「・・・私が?」 キョン「そうだ。SOS団はそれでいいんだよ。お前が中心でなきゃ駄目なんだ。 お前を中心に動いてるのがSOS団なんだよ!世界なんざそのオマケだ」 ハルヒ「キョン・・・」 長門「‥sleeping beauty」 少し、寂しそうに長門がつぶやいた。 キョン「前にも言ったよな。いつぞやのお前のポニーテールは 反則なまでに似合ってたって。・・・だからお前が髪を短くしたときは ちょっと残念だったんだぜ」 そういうとオレはハルヒの肩を寄せ、唇を重ねた。 瞬間、強烈な光がハルヒから放たれた。その光は除々に強さを増していき、 やがて目も開けていられなくなる。 朝倉「うそ・・なにこれ?なんなのよこのエネルギーは!」 やがて光が収まると、そこには黄金色に輝くハルヒがいた。 朝倉「そんな・・・」 ハルヒ「よくもやりたい放題やっちゃってくれたわねぇ。この借りは高くつくわよ。 ・・そうね、三十倍返しってトコかしら!」 朝倉「なんであなたがそんなエネルギーを!?ウソ、ウソよ!」 ハルヒ「戒名は考えるヒマはないからやっぱやめよ。覚悟しなさい!」 ハルヒは一瞬で朝倉の前に立つと、右手をかざした。そこから再び 目もくらむような光があふれ出す。 光を浴びた朝倉の体が結晶の粒となり、拡散していく。 ハルヒの体から放たれていた輝きも、少しずつ収まっていった。 朝倉「結局やられちゃったか・・・ホント、あなたたちには負けっぱなしね」 キョン「リベンジはいつでもいいぜ。また返り討ちだ」 朝倉「あーあ、なんだか長門さんがうらやましいな。こんなに素敵な友達がいるなんて」 ハルヒ「SOS団に入りたかったらいつでも来なさい!ただし、このキョンと同じ 雑用でよければだけどね!」 朝倉「・・考えておくわ。でもちょっと遅かったみたいね」 朝倉はすでに全身が結晶の粒と化していた。 朝倉「ねえキョン君、そろそろちゃんと誰かを選んであげたほうがいいんじゃない? あんまり待たせるのはよくないと思うな・・・」 キョン(・・・・・) 長門「・・・さよなら」 朝倉「またどこかで会えるといいね・・・じゃあね」 結晶の粒は音もなく崩れ去り、やがて消滅した。 古泉「キョン君!こっちは・・どうやら終わったようですね」 古泉はゆっくりと降下しながら言った。どうやら神人退治のほうも片付いたようだ。 キョン「ああ。ハルヒが終わらせてくれたよ」 みくる「キョン君、涼宮さん・・すごいです!」 いつのまにか朝比奈さんがオレの横にいた。朝倉から受けた傷は完治しているようだ。 キョン(さっきのハルヒの光・・あれのおかげかもな) 長門「閉鎖空間が消滅する」 朝倉涼子の消滅とともに世界を覆っていた灰色の空が除々に割れ、 その隙間からオレンジの光が差し込んできた。亀裂は空全体に広がっていき、 やがて元の夕焼けに戻った。 古泉「考えてみれば、我々SOS団はキョン君が生み出した閉鎖空間内部に存在していた わけですから、全員で現実の世界に来たのはこれが始めてということになりますね」 ハルヒ「・・・・・」 みくる「でも・・これでお別れですね」 キョン(!・・そうだ。オレの能力はあとわずかで消える。そしたらみんなは・・) 長門「もしもあなたが望むのなら・・」 長門がおもむろに口を開いた。 長門「あなたが望むなら、限定的に時空改変を行うことは可能」 キョン(長門・・・) 古泉「たしかに、さきほどの涼宮さんの力とキョン君の能力を合わせれば、 それもありうる話でしょう」 長門「SOS団の存在を現実化できる」 しばらくの間沈黙が続いた。オレは・・みんなと離れたくない。 キョン「みんな・・オレ・・」 ハルヒ「・・だめよキョン!そんなことしたら、私たちの代わりに現実の私たちが消えちゃうのよ・・」 古泉「たしかに、改変によって僕たちが現実化すれば、今現実にいるほうが代わりに 消滅することになるでしょう。それは多少後ろめたい気がしますね」 キョン「だって、このままじゃみんな・・・消えちゃうんだぞ・・」 ハルヒ「消えないわ!」 ハルヒが力強く叫んだ。 古泉「そうです。僕たちは元々あなたにアイデンティティを与えられた存在です ・・・元となったモデルがいたとしてもね」 みくる「だからこの実体が消えたとしても、キョン君が私たちのこと覚えててくれる限り、 私たちはずっと存在することができるんですよ」 キョン「古泉・・朝比奈さん・・・」 長門「概念的な話ではない。あなたが作り出したSOS団は、数ヶ月前に 閉鎖空間が消滅した後も確かに存在していた」 キョン「長門、本当なのか・・?」 ゆっくりとうなづく長門。 ハルヒ「だからねキョン!最後は・・私たちSOS団自体の願いをかなえるってのはどう?」 キョン「・・ハルヒ」 ハルヒ「実際もう半分以上かなえられちゃってるようなもんだけど、ね?」 キョン「・・そうだな。SOS団の目的はずっとそれだったもんな」 オレは長門、古泉、朝比奈さんの顔を順に見た。それぞれ、無言でうなずき返してくれた。 ハルヒ「じゃ、決まりね。キョン、手を貸して」 オレはハルヒに右手を差し出した。ハルヒはオレの手を強く握る。 ハルヒ「せーのでいくわよ」 キョン「おう。・・それじゃいくぞ」 ハルヒ「せーの!」 ハルヒ・キョン『宇宙人や未来人や超能力者を探し出して、一緒に遊びたい!!』 その瞬間、オレとハルヒを中心に強い光があふれた。 まばゆいばかりの光はさらに強さを増していき、やがて七色に輝く帯となって、 空に向かって無数に放たれていった。 みくる「わあ!きれい・・・」 古泉「・・幻想的な光景ですね」 キョン(・・もしかしてオレたちの願いは、世界中に届けられたのかもな) ハルヒ「願い事、かなうといいわね」 キョン「・・ああ」 古泉「・・キョン君。そろそろお別れの時間のようです」 みくる「キョン君・・・絶対に私のこと・・わ、忘れないで下さいね」 古泉はにこやかに、朝比奈さんは目をうるませながら言った。 ハルヒ「・・じゃあねキョン。あんたが宇宙人でもとっつかまえたら、また見にくるわ」 キョン「ハルヒ・・みんな、また会おうな」 ハルヒたちはやがて、光にすいこまれるようにして消えていった。 3人がいなくなると、空は再び元の夕焼けに戻った。 キョン「えらくあっさりと消えちまったもんだな、長門」 長門「消えたのは実体だけ。存在は確認できる」 キョン「それってもしかして、お前の親戚みたいなもんか?」 長門「情報生命体とは概念が異なる存在。・・言語では理解困難」 キョン「・・いいさ、なんとなくわかるから」 長門「そう」 キョン「ああ・・そうさ」 ふいに、長門がめまいを起こしたようにふらついた。 キョン「おい、大丈夫か?」 オレはとっさに支えたが、長門はかなり消耗しているらしい。 長門「・・エネルギーを使いすぎた」 キョン「今日一日でかなり無理させちまったからな・・お前も、もういっちまうのか?」 長門「いつでも会える。・・あなたの願い」 キョン「・・そうだったな」 長門「・・いつでも、あなたのそばに」 言いおわると、長門は気を失った。 キョン「みんな行っちゃったか・・・」 長門を横に寝かせると、オレは再び海に向かって腰をおろした。 キョン(今日一日で、いろんなことが起こりすぎたな・・・) まるで一瞬にして何年もすぎていってしまったような感じだ。 キョン(やっぱり少し寂しいや・・・) 夕日が沈み、あたりが暗くなる頃に長門が目を覚ました。 長門「・・うーん、あれ・・・私・・」 ゆっくりと身を起こす長門 長門「あ、キョン君?・・・よね。ここは・・・?」 どうやら、元の長門に戻ったようだ。 キョン「ああ、今さっき全部片付いたトコだ」 オレは笑顔で、長門にそういった。 長門「え・・・?全部?」 キョン「ああ、全部キレイさっぱりだ。そろそろ帰ろうぜ」 長門「う、うん」 事情を話すわけにもいかないので、オレはテキトーにごまかした。 状況をいまいち把握できていない長門をせかして、オレたちはここを後にした。 9話
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/743.html
「いい天気!!!」今日はどうやってキョンに話しかけようかな そこまではいつもの朝だった 「キョン遅いわよ!!」 「はあ!?お前みたいなキチガイに遅いとか言われたくないな、てか話しかけるな」 何言ってるの?聞き間違いよね?ねえ! 「どうしたの?キョンなんか変よ?」 「変なのはお前だろ自己紹介のときに宇宙人とかぬかしてやがったろ、ていうかもう話しかけないでくれ馬鹿がうつる」 「ちょっと!本当にどうしたのよキョン!!キョン!!!」バチーン 「え?」左頬が痛い 「話しかけるなっていってるだろ!!お前なんかさっさといなくなっちまえ!!」 何も言えなくなった どうして?何か悪いことした? 昼休み 「古泉くんならきっとなにか知ってるかも、たしか9組よね」 あ、いた…でもキョンが隣にいる、しかたがない 「古泉くn「でさ、さっきさ後ろの奴が話かけてきやがってよ」 「どんな人でしたっけ?」 「前に宇宙人とか言ってた奴さ」 「ああ、なるほどそれは災難でしたね」 「しつこかったからおもっきりひっぱたいて怒鳴ってやった」 「あなたらしくないですね、まあしかたないと思いますが」「だろ、はいチェックメイト」 これ以上ここにいたくない み、みくるちゃんなら…きっと… 二年生の教室に向かった 「みくるちゃん!!ちょっと聞いてよ!!」 「え?えっえ??あの~どなたですかぁ~?」 「…あたしがわからないの?」 「ごめんなさぁい」 そのときあたしはみくるちゃんの腕を思いっきり引っ張っていた「いたいですぅ~」 「キョンに会えば思い出すわよ!!」お願い一緒にきて そのとき腕を誰かに掴まれた 「ちょいっと待ちなっ!」 「うちのみくるが怯えてるよっ」 「もしかして女の子好きな子かいっ?でも物事には手順てやつがあるんたよっ」「…違う、違うの!!!」 あたしはそこから走り出していた いつの間にか放課後になっていた 「どうして?もう誰もあたしの味方はいないの…」 「WAWAWA~忘れ物~」 「…谷口!!」コイツだけでも 「ちょ、話しかけるなよ!涼宮菌がうつる!!」 「…もう駄目だ」 足早に家に帰った 「…キョン…キョン…どうしたらいいのかわからないよ?」涙がとまらなかった もう明日学校行きたくない………あ!!有希のこと忘れてた!! …でも有希みんなと一緒なのかな… バチーン 自分の顔を叩いた よし、明日有希に会いに行こう 少し気分が晴れたきがした 次の日は雨になった 「今のあたしの心みたい…弱気になったら駄目!!」 「まずは有希に会いに行かなきゃ!」 今日は誰とも話さなかった ひそひそと陰口を言われているのはわかったけど無視した、するしかなかった 放課後部室に向かった 初めて扉をノックした「キョンみたい」 反応がない 「しかたないわね有希だし」 扉を開けた 「有希あたしのことわかる?」 「…」コク 「本当!?」救われた気がした 「ねえ、いったいどうなってるの?キョン、みんなの記憶がなくなってるの」 「…私がした」え?何て言ってるの? 「…この世界は私が望んだ世界」 「どうして!!」有希につかみかかっていた 「…あなたがいると彼が私を見てくれない、だから世界を改変した」 「なっ!!有希!!!」手を振り下ろした 有希に届く前に弾かれた 「どうなってるの?」 「…やはりあなたは邪魔、ここであなたの存在を消しみんなの記憶から消去する」 「え?消す?あたし殺されるの??」 そう言った瞬間光の刃があたしに向かって飛んできていた 「ごめん、キョンあたしもう駄目だ…好き…だったよ」 キィーン 「え?」あたしの前で光の刃が弾きとんだ 「…!!」有希が驚いた顔をしている 「あたし何もしてないわよ」助かったの!? 振り返るとPCが光輝いていた カタカタカタ 何か書き込んである kyon 大丈夫かハルヒ? キョン!?キョンなの!? kyon ああそうだ、いきなりお前が消えちまったから長門に頼んで探してもらってたんだ 有希!?有希ならあたしを殺そうとしてるわよ YUKI.N それは私であって私でない どうなってるのよ!!あたしはどうしらいいの? YUKI.N 強く望んで本当の世界を、あなたならできるはず 望んだからってどうなるのよ! YUKI.N 時間がない私がバリアを張れるのもあと数分、それまでに わからない!!わからないわよ… kyon ハルヒ キョン kyon 頼むお前しか無理なんだ…あのなんだ早く帰ってきてくれお前がいないと…寂しいんだ …キョン kyon こんなときに言うのもなんだが俺はお前のことが世界で一番好きだ、早く戻ってきてくれ! そう書いた後に文字が消えていった 「キョンあたしやってみるよ」 「…もう終わり」 「有希!!!あたしはもとの世界に戻りたい、本音はあなたの存在を消した世界に戻りたい」 「…」 「でも、あなたはSOS団の一人、いなくなることなんて許さないわよ」 あたしは目を瞑った お願い、お願いもとの世界に…優しいキョンのいる世界に… 「…ぉが?」あたしはベッドの上で寝転がっていた 夢?だったの? 時計は4 28分を示していたその後は寝られなかった 「キョン、戻ってるわよね」朝から憂鬱になりながらいつもの坂を登った 「キョン、遅いわよ…」声がでなかった 「悪かったなこれでも早くきたほうだ」 いつものキョンだった 「キョン!キョン!!」思わず抱きついてしまった 「なっ!?おいみんなが見てるだろ」 「朝から見せてくれるね~キョンは、ね谷口」 「教室でいちゃいちゃするなってえの」 「キョンあたし怖い夢を見たの、でも…もう大丈夫よ」 「そうかい、ほら涙拭けよ」 「もう少しでいいからこうさせて」 「やれやれ」 「…好き」「ん?なんか言ったか?」 「なんでもないわよバカキョン!!」 ありがとうキョン 終わり
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/36.html
冬休みでだらけきった体が、ようやく学校生活のリズムを取り戻してきたと感じる今日この頃。 我らSOS団は何をしているのかと言うと、何故かまたもや機関紙作りに励んでいたりするわけだ。 と言っても今回は生徒会も古泉も関係ない。 ハルヒの純然たる思いつきによるものだ。 ちなみに今回の俺の分担は幻想ホラー。 はっきり言って何を書けばいいかわからんが、まあ恋愛小説よりは幾分かマシだ。 古泉と朝比奈さんは前回と変わらず、それぞれミステリと童話。 その二人は今はいない。 用事があると言って二人とも帰ってしまった。 そしてなんと言っても特筆するべきは長門の恋愛小説だろう。 俺の知る限り最も恋愛小説とは遠そうな人物であるだけに、興味はあるのだが。 果たして本当に長門が恋愛小説というものを書くことができるのだろうか。 当の長門はここ数日、キーボードを少し叩いてはフリーズして、また少し叩くという行動を繰り返している。 「有希、できた?」 早々に自分の分を書き終えたハルヒが長門の背後からパソコンを覗き込む。 「結構できてるじゃない。どれどれ」 ハルヒは長門の小さな肩に顎を置くと、そのまま読み始めた。 最初はふんふん、と頷きながら文章を追っていたハルヒだったが次第に様子がおかしくなっていった。 顔は軽く紅潮し、声にならない声をあげている。 ハルヒは長門から体を離すと、どこか恥ずかしそうに長門を見つめた。 「有希…あなた、これって」 長門は何も言わずにただコクリと頷いた。 ハルヒは小さく「そう」とつぶやくと更に顔を赤くして固まってしまった。 一体、どんな内容が書かれていたのだろうか? 俺は自分の席を立つと、長門の後ろからパソコンを覗き込んだ。 私の体にエラーが発生したのは、いつの頃からだっただろうか。 正確な時刻は私にはわからない。 しかし、その原因が彼女にあることだけは確かだった。 彼女と最初に会話をしたときのことは正確に記憶している。 彼女は、文芸部の部室で読書をしていた私の前に現れると、唐突に部室を貸して欲しいと言った。 私がそれに了承すると彼女はすぐにまたどこかに行ってしまった。 彼女がSOS団という組織を立ち上げ、私がそのメンバーに入っていることを知ったのは放課後になってからだった。 私は以前より彼女のことを知っていた。 私は彼女を知るために存在していると言った方が正確かもしれない。 そういう意味では、彼女と同じ組織に身を置くということは私にとって悪い話ではない。 彼女をより理解するために観察する日々が始まった。 彼女は感情豊かな人間だった。 感情というものの概念が理解できない私にとって彼女の行動は不可解なことが多かった。 私は彼女の観察を続けた。 次第に私個人としての意思が観察とは別の目的で、彼女の姿を目で追っている事に気がついた。 おそらくエラーが最初に発生したのは、この時からだと思われる。 発生当初は無視できるレベルだったエラーは次第に大きくなっていった。 気がつけば、私の思考の63%が彼女に対する任務とは無関係な事項で占められていた。 自分に与えられた役目をこなすに当たって、良くない影響を与える数値だったが私はエラーを消去できなかった。 消去しようとは思わなかったからだ。 それどころか私はいつの間にか、この正体不明のエラーを心地よく思っていた。 このエラーが何なのか、私は有機生命体によって書かれた資料に答えを求めることにした。 その結果、このエラーが有機生命体における恋愛の概念に酷似しているという結論に至った。 だが私と彼女は生物学的には同じXX染色体で構成されている。 だが子孫を残すためにプログラミングである有機生命体の恋愛は私には当てはまらない。 普通ならば別に原因があると考えるべきだろう。 しかし不思議なことに、何故だか私はこのエラーが彼女に対する恋愛感情であることを確信した。 その後、別の資料によると同姓同士での間に恋愛感情が発生することがあることを知った。 やはり私の確信は間違っていなかったようだ。 私の中のエラー、いや、恋愛感情は日を追うことに増大していった。 気が付けば脳内の仮定の中で彼女を弄んでいる自分がいた。 私は そこで文章は終わっていた。 どうやら、まだ書きかけらしい。 しかしだな、これは……俺はどう反応すべきなのか。 「私には、有機生命体の感情を完全に理解することはできない」 いつの間にかハルヒの前に立っていた長門がそう言った。 「他者の恋愛感情を想定、構築することは困難を極める。よって自己の経験を記すことにした」 見ればハルヒはさっき以上に真っ赤になってやがる。 「有希!」 ハルヒはそのまま絞め殺してしまうんじゃないのかってほどの勢いで長門を抱きしめた。 おいおい、俺がいることを忘れてやしないか? 「ごめんね。有希が私のことそんな風に思っていたなんて、ちっとも気付けなかった」 「いい。今の状況に私は満足している。ただ」 長門は三秒ほど止まってから、言った。 「私はという個体はもっと貴方と触れ合いたいと感じている」 ハルヒは一瞬驚いたような表情をすると、俺の方を睨み付けた。 「キョン、ちょっと出て行きなさい!」 やれやれ、何する気だよ、全く。 さすがに出歯亀する勇気の無い俺はさっさと荷物とまとめて帰りましたとさ。 それからのこと? 悪いが知らんな。 それからハルヒは不思議探索が終わった後、そのまま長門の家に泊まるようになったことだけ付け加えておくよ。
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/284.html
涼宮ハルヒのリフォーム その3から リフォーム4 涼宮夫妻合作のツナキャベツ・サンドを食べ終えた後も、ハルヒと俺は、ひなたぼっこともおしゃべりともつかぬ何かをしつつ、庭の隅にあったベンチに腰かけていた。 ハルヒが会話を切って横を向き、俺もハルヒの顔から視線を外してそっちを見ると、気配を消してきた親父さんがすぐそこまで来ていた。 「おまえら、ほんとに仲良いな。離れ離れになったら、ダメダメになっちまうんじゃないか?」 「なるわけないでしょ」 いつものオヤジ・トークだ。声にもからかいの色が乗ってるし、口元もニヤリとしてる。ハルヒが適当に受け流して、それでいつものように終わるものだと思っていた。 ところが、今日に限って、親父さんは食い下がった。多分、ハルヒの返事の些細な違い、たとえば「おおきなお世話よ」と無視を決めこむのか、それとも今日のように明確な否定を打ちだすのかの差が、そうさせたのかもしれない。 「じゃ聞くが、バカ娘。おまえは変わったか? 唯我独尊、独断専行のトラブル・メーカーの地はそのままで、キョンがフォローに回ってるだけじゃないかと言われて反論できるか?」 明らかに宣戦布告だった。親父さんが一番よく知っていよう。たとえ親子であれ(いや親子だからこそ)売られたケンカをスルーするようなハルヒではない。 ハルヒはゆっくり立ちあがった。 「自分が変わったかどうか、そんなことはわからないわ。興味もないしね。……でもね、SOS団をつくったことや、みんなで歩いた街や行った島や雪山、そこで目にしたこと、話したこと、心配したこと、夢中になってやったこと、どのひとつだってあたしは忘れない。たとえ、いつかみんなと離れ離れになるとしても、たとえ、こいつと一緒に居れなくなるなんてことがあったとしても」 俺も何か言おうとしたが、ハルヒは手でそれを制して、続けた。 「いつか、親父、言ったよね。母さんと出会って、世界が変わったって。だから『出会わなかったら』なんて、もしも話は意味がないって。あたしもそう。あたしも世界が変わったの! 毎日に色が戻って来て、また騒がしく音を立て始めたの。それも一回じゃないわ! だから、あたしは決めたの。この世界で探すって。この世界で生きるって。トラブル?上等よ。あたしは、いつ、どこにいたって、自分が探してるものを見つけるために、いくらだってジタバタしてやるわ!」 「なあに、勇ましい話?」 これも気配を消していたのだろうか、いつの間にかハルヒの母さんが、親父さんの後ろから俺たちを覗きこんでいた。 「母さん、不意打ちだ。ちょっとからかってやったつもりが、『式の朝の花嫁の挨拶』を食らっちまった」 「そんな話はしてない!」 「しかも宇宙規模の奴だぞ。《事象の地平》が、ひっくり返るかと思った」 反論するハルヒに目も暮れず、親父さんは天を仰ぎ、自分の額を手で押さえた。 「そうなの。じゃ母さん本気だして7階建てのウェディング・ケーキを焼かなくちゃね。大丈夫、ドレスでも打ち掛けでも、母さんが縫えるから。とりあえず、ハルヒ、キョン君、おめでとう」 「はあ、ありがとうございます」 「ちがーう! あんたも、雰囲気に流されるな! 何、トマトみたいに真っ赤になってんのよ!」 「おまえもだ」 暴れるハルヒに親父さんはとどめを刺した。ここの親子ケンカは、どちらも無傷で済まないようになっているのか。 「もう、あんたがあんなだから、調子狂ったじゃない! わかってるだろうけど……」 ぷんぷん、という文字を、天使なら輪っかがあるあたりに浮かべて、ハルヒは言った。 「……さっきのことは他言無用よ。今すぐ、2秒で忘れなさい。いいわね!」 「じゃあ、これも2秒で忘れてくれ。……おれも、おまえと同じだ」 「え?何が?」 「世界が変わった、って奴。……以上だ、忘れろ」 まあ、こいつの場合、そういう意味じゃなくても、世界を変えちまってる訳なんだが。 「な、なに言ってんの? 全然、分からないじゃない!」 だったら、なんで、おまえの顔がトマトになっているか、聞きたいぞ。 聞かないけどな。 相打ち、もしくは刺し違いになるのは明白だからだ。 ● ● ● 「あんたのせいで、仮眠が取れなかったじゃないの! 今夜は徹夜で、あの怪しげな洋館を捜索するってのに」 日が暮れて、夕食をすませて、おやじさんが1杯やれ、と言い出すあたりで席を立ち、俺たちは涼宮家を出た。 「一番の責任者は親父さんだ」 「そうよ、あの親父!覚えてなさい!」 今日の朝、その親父さんと行った道行きを、今はハルヒと進んでいる。 駅で電車に乗り、数駅先の駅で降りた。鍵は預かってるので、不動産屋には寄らず、そのまままっすぐ洋館へと向かう。 「いつかみたいに、途中で眠り込まないようにね」 「それはいつの話だ? 文化祭前の映画の編集の時か?」 「うっさーい。一般論よ!」 「いつかみたい」な一般論って、なんだ? まあ、映画の編集でも、確かに先に寝たのはハルヒだが、俺もほどなく眠りに落ちたし、ことわざで言うなら五十歩百歩だが。 「まあ、こんなこともあろうと、ちゃんと用意してきてよかったわ」 眠気さましか。ドリエルか?栄養ドリンクか? 含有量こそ違え、効くのは結局カフェインなんだが。 「受験生じゃあるまいし、そんなものが飲みたい訳? 『ちゃんと』って聞こえなかった?」 聞こえたさ。だが、一般的平凡人が考える『ちゃんと』が、おまえの考えるそれと同じだなんて、どうして言えるだろう。 「ホット・ミルク・ティ。春先とはいえ、夜は冷えるからね。葉っぱもいいのをおごったし、ちゃんとあたしが入れたんだからね。そこら辺の自動販売機の缶紅茶と一緒にしないこと」 「ほう。でも、なんでコーヒーじゃなくて、紅茶なんだ?」 「コーヒーには利尿作用があって……って、バカ、こんなこと言わせんな!」 はいはい、トイレが近くなるんだな。そういえば冬の天体観測にはミルクティだと聞いたことがある。野外だし、トイレが近くなっても、星の運行は待ってくれないからな。びろうな駄洒落じゃないことは、あらかじめ言っておく。 「つまんないことばっかり知ってんのね、あんたって」 「なにを、いまさら」 「まあ、確かに、いまさらだけどさ」 洋館が見えてきた。暗い夜空をバックにすると、なかなか荘厳にして不気味である。 「……確かにいまさらだけど、……あんた、怒ってない?」 「何をだ?」 正直、心当たりというなら、ありすぎて分からんし、ハルヒがこんなことを言い出す案件となると逆に希少すぎて見つけ難い。……まあ、ただ一つを除いては、だが。 「あ、あたしが、『みんなと一緒に済む!』って宣言しちゃったこと……」 1枠1頭しか走ってない競馬に賭けるようなもんだ。当たったからと言って配当金がある訳でもない。 「事の始めを思いだして、考えたの。最初は、あの不動産屋さんにいるところを、あんたに見られたところから始まったんだったわね」 「そうだな」 「あたしは、あんたと一緒に暮らしたいって言った」 「ああ」 「あんたは、その日のうちに、うちに来て、両方の親に話してくれた」 「親父さんまで入るとは思わなかったけどな。快諾してくれるとは、もっと思わなかったが。むしろ、うちの方が石頭で苦労も心配もかけたな」 「あんたのお父さんもお母さんも、当たり前のことを言っただけ、ちゃんと叱ってくれただけよ。最後には納得してくれたんだし」 「まあな」 「母さんに言われたわ。パーティの時、あんたヘコんでたって」 さすがは涼宮家最強、あれだけの演奏と歌の後、猛スピードでフルコースを食べながら、そんなことまで見てたとは。一説にはパーティ参加者にはバレバレだったという話も、あの古泉あたりに聞かされることになるんだが、今はどうだっていい話だ。 「今まで、話す機会がなかったけど、夕べの今夜だけど、あんたに尋ねるようなことじゃないんだけど……」 「……ハルヒ、頭を動かさず、洋館の2階の窓だ、一番東側の奴を見てくれ。内に誰かいる」 「!」 「鍵は最低限しか開けてないし、ちゃんと戸締りは確認した。窓を割るなり、侵入した形跡があればいいがな。なければ、俺たち以外に鍵を持っている奴がいるか、あるいは……」 おれは視線をハルヒに戻した。ハルヒはうなずいた。 「お前の大好物の、不思議野郎かもしれん」 その5へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5955.html
いったい何が起こったんだろう。 あたしには分からなかった。 月曜朝のHR。あいつはいつもギリギリに近い時間で、けど少しだけゆとりある時間で教室に入ってくるはずなのに…… 岡部教諭が入ってきてもまだあいつは現れなかった。ただ岡部教諭だけは事態を飲み込んでいたみたい。 「えー、――くんだが家の都合で今日は欠席する」 少しだけざわつく教室。 この『――』部分はあいつの本名。と言っても、あたしは別の呼び方をしてるけど。 欠席……? この言葉に正直言って違和感を感じた。 だって体調不良なら『病欠』って言うはずだし、残念ながらあたしたちSOS団はインターハイとは無縁だから部活関連で休むなんてあり得ない。 家の都合にしたって、あたしは何も聞いていないし、一昨日もそんな話をあいつはしていなかった。 どういうこと? あたしはこのときはまだ事の重大さに気が付いていなかったし、もちろん漠然とも感じていなかった。 でもね。 結果から言えば、あたしは後々激しく後悔した。そしてその後悔は思ったより早くあたしを包み込んだものだから後悔が絶望に変わるまでの時間はそんなに長くはかからなかった―― 涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side H― その日、あたしはどうにも前の席が気になった。 ん? もしキョンがいないから寂しかった、なんて想像したならお門違いよ。 そもそもあいつのことだから今日は欠席しても、明日、何食わぬ顔でひょっこり現れるだろうし、家の都合なら親戚に不幸があったのかも知んないし、ならそっとしておいてやる方が当然よね。 というか、今はあたし自身があいつの顔を見たいと思わない。 なら、今日のこれは好都合ってもんよ! 「あのぉ……涼宮さん……今日、キョンくんは……?」 「家の都合で欠席」 どこかおどおど問いかけてきたみくるちゃんに、棒読み口調で即答のあたし。 「家の都合、ですか?」 「そうよ。親戚に不幸でもあったんじゃない?」 第二の問いかけはいつもは目の前にキョンが居てボードゲームに勤しんでいる古泉くん。 もちろん、彼の問いにも予想を交えて即答。 「……まだ怒ってる?」 って、有希! 何そのいつもは無表情なのに今日ばかりは妙に哀れんだ瞳は! そもそも何でSOS団全員がヒラで雑用のあいつが気になるのよ! 「――SOS団全員ということは涼宮さんも気にしておられるということですか?」 じろ 「これは出過ぎたマネでした。ですが、一昨日、あんなことがあったというのに彼のことを心配なされている姿に僕は感動したものでして」 苦笑を浮かべて古泉くんが続けてきた。 ふむ。そう言われると悪い気はしないわね。 え? 土曜に何があったかって? んなこと聞いてどうするのよ! また蒸し返して怒りがこみ上げてくるだけだわ! まったくキョンと来たら、集合場所に一番遅れるだけならともかく、あたしに無断で他の女と一緒に駅に来るなんてどういうつもりかしら! しかもよ! 「仕方ないだろ。今日一日預かることになったんだ。けどまさか他人の家に一人で留守番させるわけにはいかないだろ。今日だけ同伴で頼むぜ」なんて言うのはまあ器量の広い団長なんだから認めてあげないこともないけど、それにしたって何であんなに仲睦じいわけ!? 「あのー涼宮さん?」 「何よ!」 「いえ……なんでもありません……」 みくるちゃんが何か聞いてきたけどどうでもいいわ! む~~~~~~~~思い出すだけで腹が立つ! 「涼宮さん、彼の言葉を信じてあげてもよろしいのではないかと」 「どういう意味よ! まさか古泉くんもキョンのあんなたわごと信じてるわけ!」 「いやまあ……確かに僕も初めて本人を目にしては、とても信じられるものではありませんでしたが……」 古泉くんがごにょごにょ引き下がる。 キョンが連れてきた女の子がどんな子ですかって? ふん! キョンは小学六年生、もうすぐ十二歳の十一歳とか言ってたけど絶対嘘よ! 可愛らしいのはまあおいとくとしても、あんな発育のいい小学六年生がいるわけないじゃない! はっきり言って、あ……じゃなくて! 有希といい勝負なんだから! あ、何で今言い直したんだって思わなかった? ……否定はしないわ……だって、それくらい発育良かったし…… って、何暗くなってんのよあたしは!? などと思いつつ、今日は苛立ったままで一日が過ぎてしまった。 うん。寝る前に牛乳をたくさん飲もう。たぶん、カルシウムが足りないんだ今のあたしは。 間違ってもあの女の子に負けないためじゃないわよ。 そこんとこ誤解しないように! 涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side K―